大判例

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京都地方裁判所 昭和46年(ワ)1145号 判決 1973年3月27日

原告

大西正助

原告

大西照子

みぎ両名訴訟代理人

渡辺哲司

被告

宇治市

みぎ代表者市長

田川熊雄

みぎ訴訟代理人

坪野米男

みぎ訴訟復代理人

小野誠之

主文

被告は、原告大西正助に対し金二八〇万円、原告大西照子に対し金二七〇万円と、これらに対する昭和四五年六月二九日から各支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は二分し、その一を原告らの、その一を被告の各負担とする。

この判決は仮に執行することができ、被告は、原告らに対しいずれも金二〇〇万円あての担保を供して仮執行を免れることができる。

事実《省略》

理由

一、訴外大西正史は、昭和四五年六月二八日午前八時頃、原告ら主張の場所から宇治川に転落して溺死したこと、同訴外人は、そのとき自転車に乗つて本件市道を北進中であつたこと、本件事故のあつた市道は、被告市の管理する道路であること、同訴外人が本件事故の時一二歳で小学校六年生であつたこと、以上のことは当事者間に争いがない。

二、本件事故の態様について判断する。

(一)  <証拠によると>次のことが認められ、<証拠判断・略>。

(1)  本件事故現場附近の模様は別紙添付図面のとおりである。

本件市道は、昭和三六年一〇月、府道から市道になつたもので、コンクリート舗装は、昭和二三年頃にされ、その後殆んど補修されていないため、損耗がひどく、ところどころに亀裂や、穴ぼこがあつた。

本件事故現場附近の、図面中「コンクリート舗装破損箇所」とある部分は、他の道路面より全体的に陥没し、崖から落ちた土砂がかぶさり、崖側の側溝は、全部埋まつていた。

(2)  本件穴ぼこである(イ)の穴ぼこは、コンクリート舗装の施行目地のところにあり、長さ六〇センチメートル、幅五センチメートル、深さ六センチメートルで、カマボコを逆にしたような形の窪みであり、(ロ)の穴ぼこは、直径三〇センチメートル、深さ五センチメートルの円形の窪みであり、(ハ)の穴ぼこは、長さ1.5メートル、幅五〇センチメートル、深さ一〇センチメートルの楕円形の窪みであつた。

この(イ)の穴ぼこは、手前一メートルのところで、ようやく発見できたが、(ロ)(ハ)の穴ぼこは、手前一〇メートルのところで発見できた。

このように、本件事故現場附近は、市道の崖側半分が陥没し、川側半分には三箇の穴ぼこがあるといつた有様で、自転車で北進するとき、道路の右の川側の方を走らざるを得ず、川側の方を走ると、三箇の穴ぼこのどれかにかかるという劣悪な道路状況であつた。

(3)  本件市道は、上流にある志津川の部落一四〇戸位の子供の通学路として使用され、六月には、観光客や釣りの者にも利用されている。しかし、自動車は殆んど通行しない。

大西正史は、本件事故現場から上流二〇〇メートル附近に居住し、通学などで本件市道を通つていたから、道路事情はよく判つていた。

(4)  大西正史は、本件事故の日、子供用自転車に乗つて、姉訴外大西順子(当時中学二年生)の後から、本件市道を北進し、本件事故現場附近の川側を走行していた。

大西正史は、(イ)(ロ)(ハ)のいずれかの穴ぼこをさけようとしたか、又は、いずれかの穴ぼこに前輪を落ち込ませて×点で自転車もろとも転倒し、身体が宇治川に投げ出されて同川に落ちた。折柄、天ケ瀬ダムが五〇〇トンもの水を放流していたので、同川の水嵩が異常に増え、道路面から約二メートル下のところまで水面がきていた。大西正史は、その濁流に飲まれて下流に押し流されて溺死した。しかし、大西正史が転倒したところを目撃した者はない。

(二)  以上認定の事実から次のことが結論づけられる。

(1)  本件市道は、コンクリート舗装ができてから二十数年が経過しているのに、被告市は、補修らしい補修をせず、本件事故当時、崖側の側溝は、崖から落下する土砂の埋まるにまかせ、本件事故現場の市道の崖側半分は、コンクリート舗装が陥没し、その上には、崖から落下する土砂がかぶさつていた。

(2)  このため自転車で本件市道を北進する者は、勢い川側を走行することを余議なくされるが、その川側には、三箇の穴ぼこがあり、北進する自転車は、そのどれかにかかるという、まことに、劣悪な道路状況であつた。

(3)  本件市道は、通学路であつたのに、このように損耗しており、天ケ瀬ダムの放流によつて、宇治川が異常に増水することがあり、この場合子供が道路から転落したときには、増水した濁流に飲まれる危険があつた。

(4)  大西正史の転落現場を目撃していた者はないが、大西正史は、本件の三箇の穴ぼこをさけようとして誤まつて自転車もろとも転倒したか、または、三箇の穴ぼこのどれかに自転車の前輪を落ち込ませて自転車もろとも転倒したもので、大西正史の転倒の原因は、本件事故現場の市道が、前述したとおり、陥没したり穴ぼこのある状態で放置されていたことにある。

三、責任原因

被告市は、本件市道の管理者として、本件市道が道路として通常具備すべき安全性が欠如しないよう、本件市道を維持、管理しなければならい。

しかし、前述したとおり、本件事故現場附近の道路は、崖側半分はコンクリート舗装が陥没し、川側半分は三箇の穴ぼこがあり、それらが放置されていたのであるから、これが、道路として通常具備すべき安全性を欠如していたとするほかはない。

従つて、被告市は、国家賠償法二条一項によつて、本件事故の賠償責任があるとしなければならない。

被告市は、穴ぼこと転落との間に因果関係がないというが、本件穴ぼこの位置と大西正史の転倒箇所とを対比したとき、大西正史は、本件三箇の穴ぼこのため転倒したことが証拠上認められ、ただ、どの穴ぼこに前輪を落ち込ませたのか、又はどの穴ぼこをさけそこなつたのかが証拠上目撃者がないため判然としないだけである。しかし、このことが判然としなくても、本件三箇のこ穴ぼが原因となつて大西正史の転倒という結果の発生したことが認められれば十分である(最判昭和三九年七月二八日民集一八巻一二四一頁参照)。

四、損害

(一)  被害者に生じた損害

各金二五一万四、三七五円

(1)  逸失利益

死亡時 一二歳(小学校六年生)の男子(当事者間に争いがない)

稼働可能年数 一八歳から六三歳まで四五年

平均給与 金五万八、〇〇〇円、賞与金一六万五、六〇〇円

(2)  相続

大西正史の逸失利益は、金五七一万三、〇〇〇円(百円以下切捨)であるが、原告らは、その相続人として、金二八五万円あて承継取得したことになる。

(3)  原告らは各金二五一万四、三七五円あて請求しているので、これをそのまま認める。

(二)  葬式費用  金一五万円

原告大西正助の本人尋問の結果によると、原告大西正助は、大西正史の葬式費用として、金三〇万円を支出したことが認められ、この認定に反する証拠はない。

この葬式費用中同原告が、被告市に対し本件事故の損害として賠償が求められる額は、金一五万円が相当である。

(三)  慰藉料  各金一五〇万円

本件に顕われた諸般の事情を斟酌し、原告らの精神的苦痛に対する慰藉料は、各金一五〇万円が相当である。

(四)  そうすると、

原告大西正助は金四一六万四、三七五円

原告大西照子は金四〇一万四、三七五円

が、その損害額である。

五、過失相殺、損益相殺

前記認定の事実によると、大西正史にも、自転車を運転するについて、悪路であることを知りながら十分これに注意して慎重に進行しなかつた点に過失があり、この過失が本件事故の一原因になつたわけであるから、当裁判所は、この過失をほぼ三割と評価し、過失相殺する。

そうすると、

原告大西正助は金二九〇万円

原告大西照子は金二八〇万円

になる。

被告市は、金二〇万円を、見舞金として原告らに支払つたと主張し、原告らはこのことを明らかに争わないから自白したものとみなす。

そこで、この金二〇万円を金一〇万円あて、原告らのみぎ損害に充当する。

そうすると、

原告大西正助は金二八〇万円

原告大西照子は金二七〇万円

になる。

六、むすび

被告市は、原告大西正助に対し金二八〇万円、原告大西照子に対し金二七〇万円と、これらに対する本件事故の日の翌日である昭和四五年六月二九日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払わなければならないから、原告らの本件請求をこの範囲で正当として認容し、民訴法八九条、九二条、一九六条に従い主文のとおり判決する。

(古崎慶長)

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